6. 総合病院

1977 芳賀赤十字病院・栃木・日本赤十字社

近年福祉重視の社会的合意をうけて,医療関係施設の充実は眼をみはるようなものがあるのは喜ぶべきことである。その充実は,量的には人口当りの保有病床数などに示され,質的には各種専門病院への分化として捉えることができよう。

私たちは創立当初から,医療施設の設計について格別の関心を持ち続け,数多くの設計を手掛けてきたが,医療施設の近年における整備傾向全般を歓迎しながらも,なお二,三の点について問題意識を持ち続けている。

その第一は,個別施設の充実の割には,大小,公私の病院の機能的連繋が不充分で,全体として地域医療や,包括医療の効果が挙っていないのではないか,ということ。

第二には,一つ一つの病院で,直接診療に関わる部門の進歩に較べ,患者の生活を支える病棟の水準が,先進諸国のそれより見劣りすること。

第三には,時間の経過に伴って変化する医療上の要求に追随できる建築のシステムを未だ充分に持ち得ていないこと,などである。

これらの問題の解決には,われわれ建築関係者だけの努力のみで実現できるものでないことは当然であるが,われわれの態度としては個々のプロジェクトを通じて,着実にその方に向うよう,平素の研修と実地の設計に全力を傾けているつもりである。ここに掲げる芳賀赤十字病院は,わが事務所のそのような営みの最近のささやかな一例である。

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