都会で暮らす人々の「生きる」を支える取り組み
~宮地病院から高齢者住宅までの建築を通して~

神戸市の東灘区に拠点を置く医療法人明倫会 宮地病院は、神戸市の発展と共に東灘区の地域医療を支えてきた民間法人です。阪神淡路大震災により再建した病院は竣工後22年を経て、現在は病院機能である外来診療部、病棟、リハビリテーション部に加え、メディカルフィットネス、短時間通所リハビリ、重度認知症デイケア、院内保育所・地域支援部門を併設し、認知症疾患医療センターの指定を受けて、地域の医療を支えています。

明倫会は、震災を機に地域密着型の医療福祉に方針転換し、様々な取り組みを行なってきました。地域で求められるニーズも年々変化し続けていくなか、法人と共に考え、設計の立場から提案してきた建築を通して、地域の暮らしを支える「拠点づくり」を紹介します。

高齢者を支える拠点づくり

病院再建と共に「老健あずさ」を病院北側に建設。その後、介護拠点として2001年「ぽー愛」、2007年「愛しや」を建設。集団処遇が前提の施設基準しかない頃、終の住処として全室個室のユニットケアに取り組み、個の空間を大切にしながら各々の生活が共用空間にもにじみ出てくるような住いを作ることができました。

地域を支える病院の成長と変化

そして宮地病院は、再建から8年後の2005年に1回目の大改修を行いました。高齢者リハビリの強化を行うために、5階全体を総合リハビリ室にフロアを改修。療養病床の一部も回復期リハビリテーション病棟に変更し在宅復帰に向けた取り組みを強化しました。

2014年、宮地病院の姉妹病院として、本山リハビリテーション病院を開院。宮地病院の回復期リハビリ病棟をそちらに移したことで、病棟1フロア分の余剰空間に「スタジオM」「Reborn」「ころねん」「つくし」を新たに開設しました。これにより宮地病院は、地域住民が予防医療や医療型認知症ケア等のサービスを提供する場に生まれ変わっています。

短時間通所リハビリ「リハスタジオM」

送迎付きで2時間程度の運動プログラムが用意されています。短時間での通所は男性にも人気が高いそうです。

旧個室病室と病棟食堂を改修した「リハスタジオM」

メディカルフィットネス「Reborn」

生活習慣病の予防・改善、地域住民の健康維持に健康運動指導士を配置して運営しています。

西側4床室群を改修したメディカルフィットネス「Reborn」

事業所内保育所「ころねん」

地域の方も利用可能な2歳児までの小規模保育所です。旧スタッフステーションと病棟浴室部分を有効に活用しました。六甲山を借景できる環境の中、畳敷きの保育室では自由に子ども達が走り回れる豊かな空間を作ることができました。

たたみ敷きの 「ころねん」

重度認知症デイケア「つくし」

高齢化社会の身近で切実な問題として、様々な認知症対応に取り組まれています。その一環として、重度の認知症の方を預かるデイケアを開設。管理諸室に改修していたエリアを再度改修しています。

ホスピタウン構想
「今後、取り組みたいことは、ユニバーサルな地域づくり。これまで高齢者の医療に取り組んできたので、障がい者や障がい児にも枠を広げていきたいですね。いま、高齢者のための施設も増えて、居場所が限定されてしまっていますよね。でも、高齢者、障がい者、子どもを別々の場所にそれぞれを集めて効率的に対応するのは、終わらないといけない気がします。それぞれの尊厳と考え方や生き方は尊重されるべきだと思います。だから、これまでのような施設ではなく、家のような場づくりから始めたいと思っています」。(明倫会理事長 宮地千尋 クラシズム2018年夏号掲載)

建築概要

  • 施設名:宮地病院
  • 建築主:医療法人明倫会
  • 所在地:兵庫県神戸市東灘区
  • 改修年:
    • リハスタジオM:2016年
    • Reborn:2016年    
    • ころねん:2017年    
    • つくし: 2017年

次に紹介する「潮騒の家」では、「ホスピタウン構想」のひとつとして、ある程度重度の方でも介護・医療サポートをしながら生活を支えることが出来るサービス付高齢者向け住宅を紹介します。


潮騒の家

北側外観

神戸市東灘区は、阪神淡路大震災によって暮らす年齢層が大きく変わった街ですが、他の地域と同様に高齢化と核家族化が進んでいます。長年暮らしてきた自宅での生活が不安になったとき安心して生活できるサービス付き高齢者向け住宅は、「可能な限り自立した生活が可能なコンパクトな個室」と「お互いの生活が自然に交じり合うことで支えあう」ことが大切であると考えました。

多くのサ高住は一般的なワンルームマンションのように、間口が狭いが最新の住宅設備を装備した25㎡程度の住戸を横並びに並べた建物タイプですが、ここでは全く異なる建築構成を提案しました。

個室は流し台とトイレが付いた18㎡というコンパクトな空間ですが、介護度が上がっても状況に応じてベッドレイアウトも変えやすく、車椅子もトイレも利用しやすい寸法・配置を追求しています。その個室7つをひとまとまりにし、ひとつの新しい「家」と考えました。個室の扉は木製で、個室内外の生活音がわずかながらあふれ出します。個室が面するホールに小さなリビングがあり、その先に大きなラウンジやキッチン、浴室、洗濯ができる湯上りスペースを設けました。小さな個室から出て、自然にこれらの機能を使いたくなるような構成により、住民どうしで自然な交流が生まれることを期待しています。

住居階平面図(サ高住)/住居詳細図

建築的には、この「家」を3つの房としてL型に配置した構成ですが、わずか柱12本の鉄骨の柱で支える構造としています。鉄骨造の特徴を活かし、大きな空間を生み出しつつ杭の本数や基礎を軽減することで合理的に建築費を低減させ、かつ「住まいの質」を保ったまま豊かな空間を提供することができました。

この地の象徴である神戸の海と六甲山の緑を楽しむことができる恵まれた環境で、これまで不安だった生活に医療・介護の支援を受け共に暮らすことで、安心感が生まれると考えています。そして、これまでと同様、自分の生活を楽しみ、社会と関わっていることを意識しながら、新しい生活を豊かにすることができる住宅が完成しました。

個室前のラウンジ ・ キッチン

個室

建物概要

  • 所在地:兵庫県神戸市東灘区
  • 事業主:神恒物産(株)・医療法人明倫会宮地病院
  • 施設内容:
    • サービス付き高齢者向け住宅50戸
    • 看護小規模多機能型居宅介護
  • 構造規模:鉄骨造 地上4階
  • 延床面積:2,308㎡
  • 竣工年月:2019年1月
  • 撮影:増田寿夫写真事務所

生きがいを持った暮らし

宮地病院の取組みから今日まで大切にしてきたことは、個々の環境を大切にし、社会から一歩離れた環境での療養生活を余儀なくされたとしても、社会との繋がりが保てる環境を用意することです。都市部の高齢化が進む中で、長年住まわれてきた地域で人間関係や、家族の支えを維持し、地域の中で暮らし続けられる環境をしっかり用意することで「生きがいを持った暮らし」が継続できると考えています。


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