人口減少社会の中で
代表取締役 鈴木 慶治
昨年の一年の世相を表す漢字は「熊」でした。実際街にクマが頻繁に出没し社会問題になっていますが、「熊」はここ数年漂う世の中の不安を象徴する言葉ととらえられます。地球温暖化による異常気象が引き起こす森林の異変がクマ出没の直接の要因と報道されますが、人口減少・高齢過疎化による空き家の増加が被害に拍車をかけています。世界を見渡しても、先進国はすべて少子高齢化が進み人口減少が始まっています。このような状況で自国経済の成長こそを是とする社会でにおいて、人々は自分に都合の良い論理を振りかざし他人のモノを奪うことが、さも合理的であるかのように振舞います。結果貧富の差を生み争いが絶えなくなります。このような不安定な社会の中では子どもを産み育てる環境は整いにくく、今後先進国が人口を維持することはできないでしょう。強大な国の指導者たちが「熊」に見えます。
共同建築設計事務所が創業した1958年、日本の人口は1億人に足りない程でしたが、戦後復興から高度成長期に大衆が同じ方向を見ている時代。大衆が望むものをつくれば売れる時代で、暮らしはどんどん豊かになり、景気の好不調はありつつも相対的に経済は右肩上がり。私たちも需要のあるままに設計の機会を得、多くの作品づくりの機会に恵まれました。それからちょうど50年で人口がピークに達し、同じ時間をかけることなく人口は急速に減り続けています。しかも少子高齢化が進む中、世代間交流は薄く、価値観は多様化しています。加えて戦後人口が急増した頃に作られた医療経済システムは限界を迎え、私たちが向き合う医療福祉分野は事業経営が厳しい状況にあります。こんな時代であるからこそ、私たちは誰もが共感できる向かうべき方向を模索しています。

出典 人口統計ラボ「一目で分かる1600年から2120年までの日本人口推移の散布図」
混沌とした時代ですが、決して悪いことばかりではありません。人口が半分に減れば、この人間によって整備された国土、環境を一人当たり現在の2倍の広さを享受できるのです。自然に返すべき環境は返し、現在あるの質の良いハードをコントロールしながら時代にふさわしいものに変化させ、創造することによって「本物の豊かさ」に近づくことができると信じています。その工夫・提案こそ我々設計者の使命であり、長くものづくりを手掛けてきたものの責任であると考えています。
「熊」の存在を受け入れつつ、本来お互いは敵対するものではないことを理解し、この地球に「共存する」もの同士で、分かち合うことを喜びと感じることができるような世の中になって欲しいと思っています。どこかの「鬼」が出てくるテレビCMのような話になってしまいました。
今後とも皆様のご指導・ご鞭撻の程、よろしくお願いします。