多様な患者と家族を受け入れるゲートの再構築
こころの医療センター五色台
香川県坂出市にある民間の精神科病院の増改築計画です。医療法人社団五色会は、1978年に現病院を開設。地域医療を支えつつ病院周辺に退院後の支援施設や地域の人々が訪れるカフェ等々を整備し、単なる医療提供では解決できない個々の暮らしも手厚く支援されてきました。その中心である病院は、築45年を経過した外来棟・病棟が中央部に残り、次の展開が見いだせないでいました。そのため、将来大規模デイケア施設への移行を考慮した仮設外来棟を前段として建設し、将来展開を容易にする起点となる外来棟の建替えに加え各所を改修、外構の再構築をすることで病院の印象を刷新する計画です。
多様性を受け入れる象徴
敷地の東と西には台地状の山が面し、田園風景が広がります。遠方には瀬戸大橋も望め、豊かな緑に恵まれた環境です。
既存病棟の間に双方の機能をつなぐ形で建つ新棟は、子どもからお年寄りまで多様な患者層とその家族を受け止め、それぞれの個性を生かしながら未来をつくる新しい「五色会」の顔となり、屋上を囲うルーバー状の円筒形が五色会の中心を表します。限られた敷地により地域の中で突出して高層化せざるを得ない状況を前向きにとらえ、新棟全体を巨大な「ゲート」と見立て、病気という難から一時的に雨宿りできる「大きな庇」で囲うことで、誰もがアプローチしやすい病院であることの象徴としています。
外来空間の充実
病院を訪れる人達がまず目にするのがポニーと触れ合える公園(セラピーガーデン)です。工事着手後まもなく隣接田畑を取得できたため改築と同時に整備が行われました。この公園から続く緑地の先にエントランスポーチがあり、玄関へと続きます。総合待合には、内部と外部の境界をやや曖昧にした大きな窓を設け、周囲の田園風景を取り込み、地域にも開かれた空間としています。主要廊下から少し奥まった場所に、柔らかい外光が入る外来待合を設けました。人々が行き交う所に熱帯魚の水槽や竹細工アート等により診察を待つ間も大人から子どもまで楽しめる仕掛けが加えられています。
安心できる居場所
新病棟は、日常生活から一旦離れ、時間を掛けながら症状緩和と生活バランスを取り戻す場として「個の領域」を保てる個室を基本としています。個室には気分に合わせて景色、風、匂い、音を自由に室内に取り込める窓があり、他者の視線や匂いを気にすることなく過ごせる環境を用意しました。個室近くにトイレ・洗面を配置し、その先にリビング・ダイニングや浴室等の共用空間を設けています。入院生活の状況に応じ、自分だけの小さな領域から、徐々に普段の生活に近い環境へと領域を広げやすくしています。
一方でスタッフ拠点は、さりげなく患者の気配が感じ取れる工夫や、保護室群への専用通路、他病棟との連携に配慮しています。2階病棟は、急性期患者の受け入れを行う既存病棟の拡張であり、個室化と隔離治療空間の充実を図っています。3階(将来4階含め)病棟は、主に18歳までの児童・思春期を対象とした専門の児童思春期病棟で、暮らしの場(病棟)から踏み出した先に学び舎と運動の場(院内学級・ジム)があり、学びや遊びなど暮らしの多様な時間を安全に過ごすことができる環境を用意しています。
運営しながらの合理的な構成へ転換
3年半をかけ2期に分けた解体・建築工事を行いました。仮設外来機能を持つ新デイケア棟が先行して計画され、増改築計画の課題の一つは既に対応が取られていました。1期工事では、病床数を維持したまま改築を行う必要があり、限られた建築エリアに20床3フロアの病棟や外来他、管理諸室を組み込み成立させています。2期工事では、不足していた機能を増築するとともに、既存棟も含めスタッフエリアの再整備や、老朽化と狭隘化が進んでいた厨房の全面改修を行いました。今回の増改築工事により、既存棟と新棟の間に庭園を設けています。新棟の日陰も心地よい空間と思えるようベンチを配し、そこに木々が彩りを添え、既存病棟にも光と緑を取り込める空間を生み出せています。
建築概要
| 建築主: | 医療法人社団 五色台 |
|---|---|
| 所在地 | 香川県坂出市 |
| 病床数: | 280床(精神科)(内 増改築60床/改修6床) |
| 構造規模: | 鉄筋コンクリート造 地上6階 |
| 延床面積: | 14,133㎡(増改築:5,209㎡ 改修:1,552㎡) |
| 竣工年月: | 2025年8月 |
| 撮影: | 合田建築写真事務所 |
新デイケア棟仮設外来/セラピーガーデン:後藤哲夫建築事務所
文責:山下健司







