穏やかに広がる田園風景と松林の中に南浜中央病院はある。広い敷地であったことが、建物の形態を制約することなく平面展開でき、看護単位の連携、浴室の共用など効率的な1フロア2看護単位を成立させ、敷地の広さは、かえって最小限の面積で病棟を成立させるという結果を生み出した。

1つの病棟は個室または個室的多床室で構成され、スタッフステーションを中心に4つのクラスターに分解されている。スタッフステーションの前には喫茶コーナーや畳コーナーを持つデイルームがあり、患者同士、患者とスタッフのコミュニケーションを促す場となっている。

各クラスターは、病室の間に水まわりと小さなデイルームを持ち、日常的な行為の中でのたまりになる。クラスターの先端には外に向いた開放的なデイルームがあり、扉を閉じることでカラオケなど音の出ることにも対応できる。また夜間でスタッフが少なくなる時には、閉じることで病棟を一回り小さくすることができる。これらの表情の違うデイルームは日によって、気分によって患者が自分の居場所を選ぶことを可能にしている。

この病棟の外には2・3階の精神療養病棟、精神一般病棟の3つの病棟で利用する食堂ホールや調理・木工・陶芸ができる作業療法室がある。1階には病棟と地域とを結ぶ「院内街路」を設定し、これにぶら下がるようにして、スタッフ・外来食堂、売店、理髪室や外来診療部、検査、薬局、デイケア、地域医療連携、心理検査の各部門等がある。病棟内だけでなく様々な種類の場所を提供することで患者が豊富な選択肢の中から好みの居場所を見つけることができる。そこは地域社会との中間点となり、地域生活への第一歩になる。これまでの守られた病棟のイメージから、地域へ戻るための病院へ変化するために重要な役割を担っている。

掲載誌

  • 会誌 『日本精神科病院協会』(2010.3)
  • 雑誌 『病院』 第72巻 第6号(2013.6)