神戸市郊外の通称ジェームス山といわれる閑静な住宅地に開院した。住宅地ができて15年を経過して地域の方々も待ち望んでいた診療所は、医師から「明るい光溢れる診療所」にしたいという依頼から始まった。

訪れる患者さんの心癒される空間をめざし、地域の方々に愛される診療所となるよう心掛けた。住宅地の良きシンボルとなるよう明るく爽やかな外観を心がけ、屋根を緩やかな曲線の金属屋根とし、外壁は珪藻土仕上げにコンクリート打放し仕上げを組み合わせ軽快なデザインとした。

木や土といった自然の色と質感を大切にし、扉をはじめ家具や外壁など内外にできるだけ自然の材料を積極的に使うことを心がけ、落ち着いた雰囲気の光溢れる空間とすることができた。

待合ホールの空間が喫茶店かギャラリーを思わせるような明るいた空間となるよう心がけた。緩やかな曲線を描いたホールは、患者さん相互の視線やスタッフと患者さんの視線が向かい合わないように工夫され、診療所全体の動線がわかりやすくなる効果とともに落ち着きある空間とすることができた。天井いっぱいの高窓と縦長の窓を組み合わせることによって、海からの心地よい風が診療所全体を通り抜け、また日差しが部屋の奥まで入るなど明るい爽やかな空間とすることができた。

二つの折り重なる円弧

モザイクタイル張りの待合ホール外壁の曲面と診察室が円弧の中心であるコンクリート打放しのエントランスキャノピーが折り重なる構成は、地域に広く開かれたイメージと医療ニーズの波を受け止める象徴としてデザインした。これら二つの円弧が交わる待合ホールが、スタッフと患者さんの良き交流の場となり、互いの信頼関係が深まることを願うとともに、この診療所が医師の情報発信の拠点となり患者さんや地域の方々が親しみを持って診療所に訪れることを期待したい。

スタッフの皆さんや患者さんにも好評いただき、竣工後2年を待たずに将来スペースとして残しておいた2階100㎡ほどをリハビリ空間に改装し、エレベータも設置することになった。将来用エレベータシャフトは倉庫として利用していたが、日焼け跡のついた倉庫の扉をリハビリの壁面収納の扉にうまく再利用するなど時の流れを感じることのできる空間とすることができた。

掲載誌

  • 雑誌 「日経ヘルスケア21」 No.145(2001.11)