あさかホスピタル 25年の道程

1996年に病棟建替えのプロポーザルに参加してから四半世紀、2023年9月「森の棟」完成により、敷地内建物の全面建替えが完了しました。

この約25年の間に精神科医療を取り巻く状況は大きく変わりました。国内の精神科医療をリードするあさかホスピタルでは、変化に柔軟に対応でき未来を見越した、一歩前を行く建築が求められました。

ここではあさかホスピタルの建築25年の道程を振り返り、後半では今回完成した森の棟をご紹介します。

1999年 A棟(花の棟)完成

この建築は全国の精神科病院に多大な影響を与えたと言っても過言ではありません。入院生活を通じて自分自身を取り戻し、社会性を取り戻すための空間のあり様を追求しています。病室は個別性を尊重する「個室的多床室」を基本とし、水廻りや談話コーナーを含めた15~16床程度のユニットを構成しました。スタッフステーションにはオープンカウンターを採用し、患者とスタッフの距離を縮め、いつでもお互いに声掛けのできる環境としました。

使用開始から24年が経ち、ニーズに応じて何度か改修を行いましたが、基本コンセプトは活かされ、私たち設計者にとって精神科病棟のスタンダードとして輝き続けています。

A棟(花の棟)の外観

ユニットの談話コーナー

個室的多床室

2008年 D棟(光の棟)完成

精神科医療が入院中心の治療から、地域で生活しながらの治療に重心が移る中、あさかホスピタルでも外来診療の充実と救急病棟をはじめとする様々な治療空間が求められました。そのような背景から何より早期診断・治療のために精神科病院の敷居を低くすることを重要と考えました。エントランスは地域に大きく開くため2層吹抜けガラス張りとし、正面にカフェを配し、誰もが訪れやすい環境としました。救急病棟は、A棟(花の棟)のコンセプトを生かしつつ、より深めることを目標としました。病室は全室個室とし、7~8名の住宅的スケールのユニットとし多様な患者層に対応可能な病棟としています。

D棟(光の棟)エントランスホール・カフェ

外来待合

D棟(光の棟)エントランス

救急病棟 食堂とスタッフステーション

病室

2013年 アルバ完成

知的障がい児施設「安積愛育園」の一部が東日本大震災で倒壊し、敷地内で移転新築を行い、総合児童発達支援センター「アルバ」に生まれ変わりました。中庭を木造平屋の家(ユニット)で囲むようなプランとし、子どもたちが安全に楽しくすごせる家としました。 

この建替えにより、その後の森の棟1期のためのスペースが生まれました。

アルバ 北西側鳥瞰全景

リビング・ダイニング

そして森の棟へ

「花の棟(A棟)」の設計に取り掛かった時点から、療養環境の平準化や機能面での充実を画策しての改修工事が毎年のように必要でしたが、大きな増改築はおよそ10年毎に計画し実現してきたことになります。この期間こそが「あさかホスピタル」を充実させるために大変重要な時間でした。この間に精神科病院のありようは大きく変わり、10年ごとの改築により、タイムリーに需要の変化への対応もできました。「森の棟」の改築に4年半かかったことも功を奏しました。病棟のほとんどを占めていた統合失調症の患者は激減・高齢化し、変わって気分障害、認知症、そして児童思春期の患者が急増してきました。当然求められるハードの質は変わりましたが、精神科病院において「建築そのものが重要な治療アイテム」であることは本質であり、患者・スタッフの安全確保を前提として「個の尊重」「生活の段階化」「豊かな療養環境」という設計コンセプトの重要性は変わっていません。

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