5. 団地住宅

1970 南神大寺団地・神奈川・日本住宅公団

団地という言葉が社会に根を下して四半世紀になる。しかし,集合住宅の集合体であるその団地の抱える問題は,都市社会の変貌に伴って,いっそう多様化し,むつかしくなってきたというほかない。とりわけ肝腎なのは,団地の誕生そのものが,たとえば日照権一つ,地域人口の増加一つ採っても明らかなように,その周辺の既成地域に投げかける影響の大きさであり,これは計画の前提条件として,いわば都市社会学的に解決を図るべきところである。けれども,設計という水準においてもまた,団地とその集合住宅の設計には周到細心な対応を迫られる具体的対象に満ちている。われわれのばあいもつねに方法上の模索を繰り返している,というのが正直なところである。

この南神大寺は横浜市近郊の既成市街地に立地された。要求される密度から,高層化して住戸を版状の棟に集約するほかなかった。その巨大な壁となる住戸棟の表情を,いかにして固い冷たい印象から免かれさせるか,そしてまた,それによって囲まれるオープンスペースを,たんに団地住民ばかりでなく近隣地域の市民にも開放して,もともとこの辺りには欠けていた緑地広場を,どのようにして親しまれる空間として形づくるか,が主眼であった。

はたしてここに現実化したものが,新しい街になりえているかどうか,それは時間の経過のなかで市民の判定にまつほかない。しかし,共有化される空間への夢こそ,集合住宅の設計に当るものの想像力のバネである。

(配置設計については日本住宅公団関東支所建築設計課ならびに市浦都市開発コンサルタンツとの協同作業による。)

ページ
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10