大切にすべきもの

代表取締役社長 鈴木 慶治

新国立競技場が使えない状況で始まった日本開催のラグビーワールドカップのできを勝手に心配していましたが、始まってみると日本代表の活躍もあって、大いに盛り上がりました。オリンピックと違い、全国各地で開催されたことも功を奏し、日本全体がまさに「One team」になれた素晴らしい大会になりました。奇跡の勝利といわれたアイルランド戦の前にヘッドコーチが選手に語り掛けたという「誰も勝つと思ってない。誰も接戦になるとも思ってない。誰も僕らが犠牲にしてきたものは分からない。信じているのは僕たちだけ――」という詩が強く印象に残りました。この言葉通り、信じられないような努力のもと、すべての選手・スタッフが自らの役割を果たした上の「結果」を、すべての日本人が誇らしく思ったことでしょう。どのような活動も表に現れる形にばかり目が行きがちですが、結果を出すための地道な努力の積み重ねが、最後本物の「かたち」を生み出します。

私たちが「生活(治療・リハビリ・生きる)のための空間はいかにあるべきなのか」を大切に、深く考え、繰り返し突き詰めていくことによって導き出される「かたち」は、単に課題に応えるだけの活動では得られることのない結果であると考えています。昨年の当社の60周年記念式祝辞のなかで日本医療福祉建築協会・会長の中山茂樹先生から「共同建築設計事務所にはいつも刺激的な提案を見せられるが、一方でスタンダードになるような建築もつくって欲しい」という課題をいただきましたが、まさに私たちはこれに応える活動をしたいと思っています。

以前、私たちが毎年のように医療福祉建築賞を受賞していた頃は、ある意味では試行錯誤の時代だったとも言えます。私たちが得意とする医療福祉の建築は、効率と機能性ばかりが求められ質素でローコストでつくるものだとされていました。しかし、その機能に利用者を癒す「環境性能」が加わった頃、バブルの影響もあって、比較的豊かな予算のもと新たに様々な提案ができるようになりました。結果、ある意味挑発的な私たちの提案が評価されたこともあり、「共同」をよくご存知の皆様にはそのころの印象が強いと思います。

その後、受賞の対象となるような作品は減りましたが、その時代に積み上げた提案の中に私たちが長く「大切にすべきもの」を見つけることができました。一つ一つの作品は、完成形として存在しますが「大切にすべきもの」をその作品ごとに深め、成長させながら、繰り返し新たな「かたち」にすることで、まさに「本質」が見えてくると実感しています。

スタンダードになるためには時間がかかります。「共同建築」の私たちはラグビー日本代表のように、個々がくじけそうになっても、皆様から新たな刺激をいただきながら、共有して信じるものを大切に、機能的で豊かな生活空間の可能性を追求し続けていきたいと思います。

昨年、20回続いた社外報は60周年記念誌を発行することに代えさせていただきました。今年再開するにあたって、時代に合った配信の仕方としてホームページを充実し、その中で改めて毎年私たちが取り組んできた作品や考え方を紹介することに致しました。この社外報を通して共同建築設計事務所をご理解いただき、皆様のパートナーとしてお役に立てることを心から願っています。

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