10年前に完成したA棟をはじめとして、既存病棟や各部門の改修を重ねてきましたが、長い入院生活に配慮し、病棟内での療養環境をいかに向上させるかという精神科病院の基本的な建築的課題をすでに達成しつつある中、次の段階として、いかに治療を進め、早期に社会復帰できる環境をつくることができるかが、このプロジェクトの主題となっています。そのためには早期受診が必要であり、「精神科」の敷居をできるだけ下げる必要があります。全室個室の急性期・ストレスケア病棟を増設し、リハビリ部門を充実させ、病院の顔となるエントランス、外来部門を一新しています。機能、基準を満たすことに追われていた精神科病院が、ゆとりを持った魅力的な空間で満たされ、ともすれば社会の中で疎外感を抱いていた患者様が、温かく迎えられ、自ら積極的に治療を受ける気持ちになれる環境を作りたいと考えました。
その上で、個別性を尊重し、医療スタッフとできるだけ近いところで治療に専念できる環境を徹底的に追求しています。
| 建築主 | 社会医療法人 あさかホスピタル |
|---|---|
| 所在地 | 福島県郡山市 |
| 構造規模 | 鉄筋コンクリート造 一部鉄骨造 地下1階 地上4階 |
| 延床面積 | 5,696㎡（増築部） |
| 病床数 | 571床（増築60床） |
| 竣工 | 2008.06 |
| 写真撮影 | 増田寿夫写真事務所 |
あさかホスピタルは福島県郡山市にある民間の精神科病院です。1997年、病棟の建て替えを検討されている中、ダイレクトメールをきっかけに声をかけていただいたのが出会いとなりました。プロポーザルを経て設計を進め、従来の精神科病棟の作り方に囚われない新しく大胆な試みを実現した「A棟」が生まれました。個室的多床室、クラスター型の病棟構成、オープンナースカウンターなどがその一例です。
私たちが創業以来大切にしてきた患者さんの療養環境を重視した空間づくりの積み重ねが、ここで新しいかたちとなって実現したと言えます。また、この新たな提案を病院長はじめとする病院の方々と前向きに議論し考え方を共有できたことで、ソフトとハードがうまくかみ合い、今日まで有効な治療空間としての役割を果たせているものと思います。
敷地内には建築年数の異なる病棟や診療棟が幾棟もあり、A棟竣工後それらの建物の内装リニューアルを順番に行っていきました。2006年には外来部門や全室個室のスーパー救急病棟、リハビリ部門、厨房等のサービス部門で構成されるD棟を建設、メインエントランスも一新されました。そして現在は、昭和40～50年代に建設され今も稼働している病棟や診療部門、管理部門等の入るB棟と本館の建て替え工事に着手しています。初期のプロポーザルでは、すべての病棟を一気に改築する計画でしたが、実際には現状に即して少しずつ計画を重ねることにより、時代をリードする民間精神科病院として注目され続けています。
あさかホスピタルグループは長年地域の医療や介護において大きな役割を担っていますが、私たちは高齢者や障がい者の生活や自立をサポートする場となる建築にも関わってきました。20数年間継続して様々な建築に携わる機会をいただいてきましたが、あさかホスピタルグループのクレド「心の声に、耳を澄まそう」を私たちも設計コンセプトの1つと捉え、利用者の方々の治療・療養環境や生活環境をいかに快適で心地よいものとするか、安心できる居場所をつくれるか、これからもこのことに誠実に向き合い、新たな空間づくりに挑戦し続けたいと思います。
