市街地に建つ大規模精神科病院の敷地内全面建替え
－浜寺病院

浜寺病院は大阪府南部の高石市にある精神科病院です。1930年に開院され、精神科救急から慢性期、認知症まで幅広い精神疾患に対応する地域の精神科医療の基幹病院となっています。

南側公園から樹木帯・街路がつながる西面メインアプローチ、キャノピー

3期6年にわたる建替え工事

敷地内での全面建替えプロジェクトは2013年より計画に着手し､2015年4月の着工から6年余り経た2021年9月に外構工事を完成させ、グランドオープンを迎えました。

敷地は戸建住宅を中心とした住宅街の中にあり、南側は公園に面しています。開院以来の増床・増築により敷地いっぱいに建物が展開して一度に建替えるスペースが残されておらず、病棟においては計12病棟が4棟に分かれ配置されていました。計画では病院機能を維持する建替手順と、分散した診療機能・病棟の集約、将来の医療需要の変化も見越した配置計画を行いました。敷地北側駐車場へのI期「はなみずき」（108床の病棟）建設を皮切りに3期にわたる建設・既存棟解体を経て、病床のダウンサイジングを図りつつ全面的な建替えを実現しました。多様化する精神疾患と高齢化に対して的確な医療を提供するための機能を強化するために、療養・多床室が中心の既存病棟から、個室や個別的環境を重視した病棟とすることや、リハビリ部門の充実化を図りました。

訪れやすい地域に開かれた｢森の病院｣

－東西道路に面したダブルメインアプローチと2層吹抜けの外来総合待合－

開放的な外来総合待合

敷地は東西とも道路に接道しており、東面では都市計画道路の事業が現在も進められています。既存の主玄関は西面に配置されていましたが、建替えでは東西の道路をつなぐ街路のようなホスピタルモールを軸に東西にエントランスを設け、外来総合待合は開放的な吹抜け空間としています。中待合からは中庭越しに南側公園の桜を望みます。精神科外来の利用者に対するプライバシーに十分配慮しつつアプローチしやすく開放的で明るい外来空間としました。

二層吹抜の外来総合待合と街路のようなホスピタルモール

外来総合待合と総合受付

外来待合 中庭越しに南側公園を望む

ー南側公園の緑を引き込む外構デザイン－

隣接する公園で建替えに先立ち進められていた治水・修景工事が2018年に完成し、桜の見事な親水公園は地域の憩いの場となっています。道路際の既存棟を解体した部分に設けた新しいメインアプローチはその南側公園の緑を引き込むように道路に沿って樹木帯と歩道を設けています。敷地内に設けた歩道は病院へのアプローチだけでなく、病院に隣接する保育施設から子供たちが安全に公園へアクセスするための動線として活用されるなど、地域の景観と安全に配慮した外構デザインとしています。樹種選定においては専門家による潜在自然植生、現存植生の調査を行った上で土地本来の植生に配慮した樹種を主体とし、環境圧に耐え手入れもしやすいよう配慮しています。地域や病院の象徴ともなっている南側公園の桜を敷地内にも点在させ、公園と連続する植栽帯が住宅街と病院とのバッファとなり、地域にも親しまれる「森の病院」となるよう計画しました。

運用の変化に柔軟に応え多様な診療を支える病棟構成

既存棟解体スペースへの病棟建設の繰り返しは建築の形態に大きな制約となりましたが、どの病棟においても全体が見渡せ見守りの行き届くスタッフステーションを中心に、大阪平野を取り囲む山並みや緑豊かな南側公園、外構や屋上庭園の木々の景観を取り込む食堂、共用部のある豊かな療養環境を実現しました。病室は多床室においてもベッド毎に窓を設け個別環境を大切にし、男女混合での運用もしやすい病棟ゾーニングにより多様化する精神疾患に対応できるものとしました。

外部空間を引き込む眺望のよい病棟食堂

先に完成したI期「はなみずき」は2フロアを1病棟とした2病棟4階建の独立した病棟で、限られた増築スペースに建ちますが、将来を見据え居住施設への転用も視野に計画しました。その独立性を生かし、建替工事中に流行した新型コロナウイルス感染症に対応するため、個室ゾーンを有し他の病棟・入院患者との動線分離も可能な「はなみずき」4階を軽症感染者の入院受入病床として転用運用されています。

独立した病棟のI期はなみずき

住宅街の中に建つ浜寺病院は、今回の全面建替えにより自然豊かな外部空間との連続性を獲得することができました。そのことが治療の質の向上に寄与することに加え、開かれた精神科病院として地域に永く親しまれる存在であり続ける一助になればと思います。

建築概要

以下、詳細

さくら棟（III期）2020年8月完成

けやき棟（II期）2018年4月完成

はなみずき棟（Ⅰ期）　2016年6月完成

撮影（共通）：増田寿夫写真事務所