医療福祉建築賞2012/日本医療福祉建築協会
選評
アプローチから見ると、絵葉書を見るかのように、アルプスの山々を背景に設計者も設計を楽しんだと想像される美しい建物であった。県立病院という硬いイメージ・精神病院の暗いイメージ・厳しい動線分離からの脱皮、見通しのためのどこまでも真直ぐな廊下からの脱皮など、精神病院のイメージを大きく変える施設である。
病院のイメージを最初に決定づける玄関ホールは、トップライトや中庭もあり、レンガの壁も取り込んだ半屋外的な空間でどこまでも明るく、患者も家族も区別なく落ち着く小さなスケールでありながら、空間を大きく感じさせていた。その一方で、緊張しているであろう初診患者の待合が他の人からストレートに見えない配慮など、全体的に、細かく密度高く設計されている。病棟は、個室中心(75%)であるが、4床室も各ベッドに窓のある個室感覚であり、分散配置されたデイルームからは外の光が入り、外の風景を眺めることができ、長い廊下のイメージから脱皮してアットホームである。
設計趣旨の説明では、「地域に帰るための病院」「敷居の低い地域に開かれた病院」が主題となっていたが、既に病院が地域の中にあるような感じである。デイケア部分は空間構成上も職員配置上も充実しており、運営的にも設計主旨が実践されていた。精神病院ならではの治療空間としての共用空間・中庭などの質の高さが印象的であり、これらの空間が患者の生活に生かされていると感じられた。
自然素材の多用などによる長寿命化やレンガによる外断熱、メンテナンスコスト低減への工夫など、建築の今日的課題にも応えている。
その他の受賞
- 第16回公共建築賞・関東地区優秀賞(2018)/公共建築協会
- 第16回公共建築賞・特別賞(2018)/公共建築協会
- 第45回中部建築賞・入賞(2013)/中部建築賞協議会